4. 当院での白内障手術
白内障手術は、日帰りで行っております。手術を受ける約2時間前から瞳を開く目薬をつけて、前方から水晶体を広く見えるような状態にします。さらに手術室に入る直前に麻酔薬を点眼します。手術室に入ったら、椅子に掛けて頂きます。この椅子は自動的に横になって手術用のベッドになります。その後、消毒液で目の表面を消毒します。消毒が済むと清潔な布が顔に被さり、瞼を大きく開く器械が置かれ、顕微鏡で目を観察しながら手術が開始されます。まず、眼球に小さい傷を作ります。この傷から目の中に特殊な器械を入れ、水晶体の前嚢という部分を取り除き、水晶体の濁った蛋白が露出した状態にします。次に超音波白内障手術装置の先端部分を目の中に入れ濁った蛋白を細かく砕きながら吸引除去します。眼内レンズはアクリルという折り曲げることが可能なレンズをまるく折り畳んで目の中に入れ中で開きます。所要時間は平均して3-4分ですが、目の違いによって多少時間が長くかかることもあります。手術が終了したら眼帯をして、少し休んでから帰宅して頂きます。
眼帯は翌日には取ることができます。眼帯を取ったら目薬を2種類、1日4回を約1週間、その後は一日3回で約1カ月つけて頂きます。手術を受けてから特に1週間は目を擦ったり、押さえたりしないでください。非常に小さい手術の傷ですが開いてしますこともありますので、不潔にしないように注意してください。
手術後は、眼鏡を掛けなくても日常生活に困ることはほとんどありませんが、新聞を読んだりする場合は近用の眼鏡が必要になります。また。遠くの小さい文字を読んだり、車の運転をしたりする場合には眼鏡が必要になる場合もあります。眼鏡は手術を受けてから3-4週間して目の傷が安定して、視力の変動が無くなった時期に検査をして患者さんの目に合った眼鏡の処方せんをお作りします。
5. 白内障手術の安全性とその合併症
白内障手術の成功率は、過去5年間の成績(前任地の新八柱台病院)では約99.7%です。ほとんどの患者さんは1回の手術で視力回復が可能ですが、約0.3%の患者さんは軽度から重度の合併症を起こす可能性があります。
白内障手術における合併症について説明致します。
1)術後眼内炎: 発生頻度は3000人から5000人に一人の割合だと一般的に言われております。この合併症では手術中あるいは術後に、傷から目の中に細菌が入り眼内で強い炎症起こします。手術前には、十分に目の表面を消毒しますが、白内障手術で使用する消毒液は、他の外科手術で使用する消毒液を10から20倍に薄めたものです。目の表面、特に黒目の表面は皮膚の表面とは違い生きた細胞が並んでいます。この細胞は通常の消毒液で消毒すると死んでしまい、黒目が白く濁ってしまいます。そのために消毒液を薄めて使わなくてはなりませんが、その分消毒の効果が落ちて細菌を完全に殺すことができず術後眼内炎が発生してしまいます。術後眼内炎が起きた場合はすぐに硝子体手術という手術で目の中の細菌を完全に取り除き、抗生物質で洗浄することが必要です。
治療が遅れると失明の可能性があります。月曜日に手術した場合は、火曜日の朝に診察し、術後眼内炎の兆候があれば手術の準備をして午後に手術を行います。金曜日に手術した場合は土曜日の午後に手術となります。硝子体手術は主に糖尿病網膜症に対して行われる非常に難しい手術で、糖尿病網膜症の専門医がいない病院では行うことができません。多くの白内障手術をする病院では硝子体手術ができる専門医が常勤していないため、大学病院などに転院する必要があり、手術が遅れてしまう可能性があります。その点、当院では術後眼内炎が起きた場合にも迅速な治療が可能ですので安心して白内障手術を受けることができます。
2)後嚢破損による硝子体脱出: 頻度は病院や執刀医によって違いますが、当院では300人から600人に一人の割合です。軽症の合併症ですが、適切な処置をしないと術後に網膜剥離を起こしたり、眼内レンズが傾いたりしてしまうことがあります。慎重に脱出した硝子体を切除する必要がありますので、手術時間が余計に10分から20分かかる可能性がありますが、後遺症を残さずに手術を終了することができますので、手術が10分以上かかっても心配する必要はありません。
後嚢が破損する原因は、特に高齢の患者さんで目の組織が老化によって脆くなっている場合がほとんですが、執刀医の経験が未熟な場合に正常の後嚢でも破損する場合があります。当院での後嚢破損の発生頻度は学会などで報告されている頻度と比べて極めて低く、安全性の高い手術と言えます。
3)チン氏帯断裂による眼内レンズが移植できない: 頻度は術前に予測できる患者さんを除いて、当院では1300人に1人ぐらいの頻度ですが、病院により発生頻度にばらつきがあり、やはり手術操作を丁寧に行う執刀医による発生頻度は低くなると考えられます。この合併症が起きた場合は、初回手術では眼内レンズは移植できませんが、術後3-4週間経過して目の炎症が完全に消失した時期を選んで2回目の手術を行います。2回目の手術は、眼内レンズを支持する2本の足を直接、眼球の壁に縫い付ける手術です。当院では手術の傷が小さく済むように新型のアクリルの眼内レンズを用いており、縫合に用いた糸が目の表面に出て来ないように眼内に糸を埋め込んで手術を行っております。従って、術後に異物感や痛みを訴えることはありません。2回目の手術が無事終了すれば、後遺症を残さずに視力を回復することができます。
4)後嚢破損あるいはチン氏帯断裂による水晶体核の落下:水晶体核を超音波乳化吸引中に水晶体の後嚢を破損して大きな亀裂が生じたり、チン氏帯断裂が生じて水晶体の支えがなくなると水晶体核が網膜上に落下する場合があります、この合併症の頻度は3000から4000例に一例ぐらいですが、数日中に硝子体手術を行って落下した水晶体核を除去する必要があります。また、同時に眼内レンズの挿入あるいは縫着を行います。
5)眼内レンズの交換:強度の近視や遠視のある眼は眼球の前後方向の長さが極端に長かったり、短かったりするので眼球の長さ(眼軸長)の測定に誤差が出て、眼内レンズ挿入後に強い近視や遠視になったりする場合があります。眼鏡での矯正が不可能な場合は手術後1週間以内に眼内レンズの交換を行います。1週間以内であれば、簡単に交換が可能です。
6)黄斑浮腫:手術は何の問題もなく終了しても、手術1-3週間後に術後の軽微な眼内炎症により眼球の後ろの方にある網膜の中心部の黄斑部に浮腫が生じて視力低下を起こす場合があります。ほとんど場合、視力低下は軽微ですので問題ありませんが、稀に重症化して治療が必要になる場合もあります。重症化した場合は視力回復まで時間が1ヶ月ほどかかる場合もあります。
7)後発白内障:手術後数ヶ月から数年して、眼内レンズを入れるために残した水晶体の後ろの膜自体が濁る病気ですが、白内障手術を受けた患者さんの内、約5%の方に発症すると言われています。数分のレーザー治療を行えば、翌日から視力は回復します。
6. 病院や執刀医による白内障手術の違い
白内障手術はどこの病院でも同じような方法で行われ、安全性、視力回復の善し悪し、合併症の頻度に違いがないと考えている患者さんがたくさんいると思いますが、残念ながらそれは正しい理解ではありません。今や大学病院でも一般の病院、眼科医院でも使用される手術装置、手術顕微鏡に違いはありませんが、手術の方法、執刀医の経験や手術技術は大きく違います。白内障手術をする眼科医が白内障手術の専門家である場合あるいは専門家と同等の技術持っていることは非常にまれです。
従って、その技術の差は大きく、術後の視力回復にも大きな影響を与え、合併症の頻度に何倍もの開きがあます。最悪の場合は視力が回復するどころか失明する場合さえあります。
私は、過去6年間に6000人を超える患者さんに対して白内障手術を行い、サトウ眼科クリニック開院前の平成18年は1653例(他院での出張手術も含む)の白内障手術を行いました。また、手術時間も平均3-4分で、患者さんに負担の少ない手術です。
白内障手術は安全で負担の少ない手術ですが、けっして成功率は100%ではありません。手術を受けるかどうかは、最終的にご家族と相談しご本人が決断してください。手術を希望しない患者さんに手術を行うことはありません。しかし、白内障は進行性の病気で、現在はなんとか見えていても数年先には確実に視力は低下し手術が必要になる可能性があります。また、数年先に手術を受けるのと今手術を受けるのを比較すると、明らかに数年先に手術を受ける方が手術の成功率は低下します。これは、白内障が進行とともに濁った水晶体が硬くなって手術が難しくなるからです。